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講義「新約聖書学入門1」第6回(2021年度)

新約聖書学入門1 マタイ福音書(1)概要、ダビデの子村山盛葦

CHAPTER

講義の概要

マタイ福音書の概要
・マルコを利用(酷似した筋立て)
・系図、誕生物語、山上の説教、エクレシア論、復活顕現物語など
・マタイ福音書の構成(配布プリント)

(1)ダビデの子
マルコ1:1「神の子イエス・キリストの福音の初め」
マタイ1:1「アブラハムの子ダビデの子、イエス・キリストの系図」
アブラハム:ユダヤ民族の父
ダビデ:ユダヤ民族の王
ダビデの末裔から救い主(メシア=キリスト)が出現するという待望論

系図による信用証明  
① 3つの区分:アブラハム~ダビデ、ダビデ~バビロン捕囚、バビロン捕囚~イエス
② なぜ14代? 
神聖な数、完全・秩序の数である7の倍
ヘブライ文字(ダビデ) d v d 4+6+4=14
③ 4人の女性:タマル、ラハブ、ルツ、ウリヤの妻(バト・シェバ)
☜外国人、例外的な婚姻・懐妊
④ 法的つながり(血縁に代わるもの):父権の行使(父による認知)

(2)新しいモーセ
a. イエスの物語
 ・旧約預言の成就(1:23; 2:6, 15, 18, 23; 4:15-16; 8:17; 12:18-21; 13:35; 21:5) 
… 旧約引用の導入句(1:22他)
 ・モーセの物語(出エジプト1~20章)との類似
   ヘロデ王 = ファラオ
   ヨルダン川 = 紅海
   40日間 = 40年
   山上の説教 = シナイ山の律法
b. 五つの教え
 ① 山上の説教(5~7章)
 ② 12弟子派遣説教(10章)
 ③ 御言葉を聞く者と「天の国」(13章)
 ④ エクレシア(教会)の運営(18章)
 ⑤ 終末についての教え(24~25章)
 // モーセ五書(創世記、出エジプト記、レビ記、 民数記、申命記)
☆キリスト者の手引書・ガイダンス(7:24-28)
c. 新しい教え (6つの反対命題)(5:21-48)
  ユダヤ教の教え(モーセ律法)   古い律法
    ⇓ 「しかし、わたしは言っておく」
  イエスの斬新かつ徹底した教え  新しい律法
  ①殺人、②姦淫、③離婚、④誓い、⑤復讐、⑥敵
(参考)反対命題の解釈
 ・律法の趣旨を徹底化
 ・形骸化を抑止:考え方・感情も対象(すべての次元での罪)
 ・家父長制社会における権力乱用を抑制(離婚の禁止)
 ・無抵抗の抵抗(非暴力の抵抗)

(3)律法の完成者
・5:17-20 律法の完成
・5:21-48 反対命題(ユダヤ教の教えを超える完成度の高さ) 完全な神を目標として(5:48)
・6:1-18 重要な宗教的行ない
 ①施し(他者との関係)
 ②祈り(神との関係)
 ③断食(自己との関係)
・23:2-3 律法遵守の勧め
・23:23 「十分の一の献げ物」
・24:20 安息日遵守(参照、使1:12)
・ラディカルなイエス像を緩和
  例 マルコ7:1-23とマタイ15:1-20の比較
  マルコ7:15, 19c(ユダヤ教の食物規定の無効)の緩和・削除(マタイ15:16-17)

(4)「愛の掟」の実践者
・9:9-13 罪人との食卓
・12:1-8 安息日論争
  ホセア書6:6「わたしが求めるのは憐れみであって、いけにえではない」
マタイの理解
 イエス ⇒律法の本質(愛、他人への配慮)
 ファリサイ派 ⇒儀式的、祭儀的規定を重視

(5)ユダヤ教指導者に対する批判
・6:1-18 偽善的宗教行為
・21:28-32「二人の息子」のたとえ(マタイ特殊資料M)
 父=神、弟=ユダヤ教指導者、兄=徴税人、娼婦たち←「神の国」に先に入る
・21:33-44「ぶどう園と農夫」(マルコ12:1-12)
 ☆21:43「ふさわしい実を結ぶ民族」(マタイの付加)   
          ↓
      キリスト信仰者のグループ(第三の民族)

・23:13-36 偽善者(ファリサイ派と律法学者)に対する7つの悲嘆
   「不幸である(ouai ウーアイ)」☜呪詛ではなく、悲嘆・悲痛の間投詞
 理由:妨害者、改悪者、詭弁者、祭儀的律法のみ、形式主義・虚栄心、迫害者
(参考)玉川直重『新約聖書ギリシア語独習』改訂・新版(キリスト新聞社、2002年)

(6)冤罪者(無実の罪)
マルコ15:6-15とマタイ27:15-26の比較
イエスの無実 
  ↕
ユダヤ当局、ユダヤ民族の責任(有罪)
27:15-18 ピラトの好意
27:19 ピラトの妻の助言(マタイのみ)
27:20 群衆を扇動
27:22-23 群衆の反応
27:24-25 ユダヤ民族の責任(マタイのみ)

☆聖書における反ユダヤ主義?
ユダヤ教に対する批判(マタイ福音書など)
        特定の歴史的文脈における批判
         ⇒同胞に対する「究極的な関心」に基づいた批判・告発・弾劾であって
          断じてその全否定ではない!
     (参照)エウセビオス(秦はた剛平ごうへい訳)『教会史』上「訳者はしがき」8頁)
 正典化(4世紀末)=キリスト教の正典としての文書
 普遍化(反ユダヤ主義の正当化に加担)

資料

レジメ マタイ福音書ダウンロード

マタイ福音書の構成(資料)ダウンロード

総時間数

1時間7分49秒

撮影年月日

2021年3月7日